《アポステリオリ》D-Day
私は今日、殺される。 ――たった一つの願いのために生きてきた。 彼の手で殺されること。 彼の腕のなかで、永遠の眠りにつくこと。 「カロンは、コードネームだ。――――名前は……ダート」 ――ダート……私の救世主。...
私は今日、殺される。 ――たった一つの願いのために生きてきた。 彼の手で殺されること。 彼の腕のなかで、永遠の眠りにつくこと。 「カロンは、コードネームだ。――――名前は……ダート」 ――ダート……私の救世主。...
夢か、記憶か。何かにうなされるような不快感。 暗い海にもぐると、幼い自分が見えた。 きれいなドレスを着せられ、愛想よく、正しいマナーで振舞う。愛される一人娘を演じることを強いられ、ミスをすればお仕置きだった。 数...
『おかえりなさい』 そう言うと、彼の目がきらきらと瞬いた。 ――夢か。 暖かい日差しで目を覚ます。 ここに来てから、どうしてもぐっすり眠ってしまう。 コーヒーの匂いがして、彼が飲んでいるのかと思ったら、私の分ま...
目が覚めると、窓から見える太陽はすでに真上を過ぎていた。 ――寝てしまった! 「ごめんなさい。起きていようと思ってたんですけど……」 表情は変わらなかったし、ぶっきらぼうな声だったけれど、配慮を感じる言葉を時々かけ...
朝食をとる彼を、じっと見つめる。 「私のこと、何も聞かないんですね。追い出しもしないし。だから――」 私みたいなのにつけ込まれちゃうんですよ。 「――…もう。いいです。私、カナンっていいます。今年の三月で高校卒業なん...
鷹の目の優男から聞いた場所を訪れる。白いコンクリートの廃屋。 建物の半分ほど階段を上り、不用心にも鍵のかかっていない扉を開けた。外観とは裏腹に、部屋の中には生活しているらしい痕跡がある。 ――首に、硬く冷たいものが...
屋敷のドアノッカーを叩く。 中肉中背の無骨な男が出てきた。用件を告げると、何か感づかれたのか追い返されそうになったが、力づくで食い下がる。 そうこうしているうちに、奥から別の――話していた男より若そうな、紳士然とし...
あの日から、たった一つの願いのために生きてきた。 ――ようやく悪魔の巣から抜け出すことができる。 事件のあと、親戚の家に引き取られることになった。 最初のうちはよかった――ほんとうに。世間体と遺産欲しさに後見人に...
「おい、聞いたか!?」 慌てた様子で男が広間に入ってきた。 ざわつきのなかで、十数人の目が男に集まる。 「あいつ――カロンが、死んだって……!」 静まりかえった部屋。 ソファに座っていた一人が、楽しそうに呟いた。...
ある日、一人の少女が屋敷の扉をノックした。 「――なんだ? 学生さん?」 黒いセーラー服を着た彼女は、人形のように無表情だった。 「……人を探しているんです」 ――門番はどうした? どうやって敷地内に入ってきた? ...