彼の家があった少し開けた場所から、木々の間が狭まって道らしくなっているところを通り、入り江とは反対方向、島の中心部に向かって進む。
名前といえば、と思い出したように安東が彼に話しかける。
「あの、さっきの美少年は……」
「あぁ、彼はシオン。……綺麗な子でしょう? 外見で判断するのは良くないことですが、多感な年頃に閉鎖的な環境では、自分たちと異なる見た目の存在は爪弾きの対象になりやすい。学校で馴染めなかったようで、暫くの間預かっているんです」
「綺麗すぎるのも大変ですねぇ……」
何とも他人事のように、若しくは果てしなく純粋そうな表情と抑揚で、安東は感想を述べた。
時折他愛もない会話をしながら歩くこと数分、先程よりもはるかに広い空が見える場所に辿り着いた。
まるで長閑な農村だ。建物の造りから、ヨーロッパ――それも近世以前のような印象である。
石造りの家がいくつかは密集して、いくつかは点々と建っている。煙突からは煙が揺蕩い、洗濯をする人や、牧草を抱えている人、ベンチに座り楽しそうに話す人々が見える。
彼らはミチナガに気づくと挨拶を交わし、こちらにも人の好さそうな笑顔を向けてくれた。
そうして数軒通り過ぎ、何軒目かの家の入口に近づいていく。
扉まであと少しのところで、中から人が出てきたようだ。
「――あれ? ミチナガ」
「やぁ、ユズキ。お出掛けかな?」