「昔、十九の頃だから……七十年近く前だ。船で海に出た時に、嵐に遭ってね。海に投げ出されたんだ。目が覚めたら、上等な寝台に横になっていてね。体は重いし、足を怪我して動けなかった。部屋の様子を窺っていると、戸が開いて、誰かが入ってきた――そりゃあもう、この世のものとは思えんような、女神様みたいな人が。……いや、あのお方は女神様だ、間違いない」
「女神様ですか」
安東が熱心に話を聞いている。
「そう、きらきら光る薄い金色の髪、ビー玉みたいな緑の目。今でもはっきりと思い出せるよ。……そのお方がね、看病をしてくれて、暫くそこで過ごした。夢のような時間だったよ。歩けるようになると、家の外を案内してくれてね。その時初めて、そこが満島だと知った。青々とした木々に、いろんな花が咲いていて、楽園かと思ったよ。目が覚めて初めてそのお方――イズナ様を見た時、自分は死んだのかと思ったんだが、外に出て満島を見て回った時もまた、やっぱり自分は死んだのかと思った――あんまり美しいもんだからね。女神様がいる天国かと」