《アポステリオリ》D-Day

 私は今日、殺される。  ――たった一つの願いのために生きてきた。  彼の手で殺されること。  彼の腕のなかで、永遠の眠りにつくこと。 「カロンは、コードネームだ。――――名前は……ダート」  ――ダート……私の救世主。...

《アポステリオリ》D-1

 夢か、記憶か。何かにうなされるような不快感。  暗い海にもぐると、幼い自分が見えた。  きれいなドレスを着せられ、愛想よく、正しいマナーで振舞う。愛される一人娘を演じることを強いられ、ミスをすればお仕置きだった。  数...

《アポステリオリ》D-2

『おかえりなさい』  そう言うと、彼の目がきらきらと瞬いた。  ――夢か。  暖かい日差しで目を覚ます。  ここに来てから、どうしてもぐっすり眠ってしまう。  コーヒーの匂いがして、彼が飲んでいるのかと思ったら、私の分ま...

《アポステリオリ》D-4

 目が覚めると、窓から見える太陽はすでに真上を過ぎていた。  ――寝てしまった! 「ごめんなさい。起きていようと思ってたんですけど……」  表情は変わらなかったし、ぶっきらぼうな声だったけれど、配慮を感じる言葉を時々かけ...

《アポステリオリ》D-5

 朝食をとる彼を、じっと見つめる。 「私のこと、何も聞かないんですね。追い出しもしないし。だから――」  私みたいなのにつけ込まれちゃうんですよ。 「――…もう。いいです。私、カナンっていいます。今年の三月で高校卒業なん...

《アポステリオリ》D-6

 鷹の目の優男から聞いた場所を訪れる。白いコンクリートの廃屋。  建物の半分ほど階段を上り、不用心にも鍵のかかっていない扉を開けた。外観とは裏腹に、部屋の中には生活しているらしい痕跡がある。  ――首に、硬く冷たいものが...

《アポステリオリ》D-13

 屋敷のドアノッカーを叩く。  中肉中背の無骨な男が出てきた。用件を告げると、何か感づかれたのか追い返されそうになったが、力づくで食い下がる。  そうこうしているうちに、奥から別の――話していた男より若そうな、紳士然とし...

《アポステリオリ》D-1018

 あの日から、たった一つの願いのために生きてきた。  ――ようやく悪魔の巣から抜け出すことができる。  事件のあと、親戚の家に引き取られることになった。  最初のうちはよかった――ほんとうに。世間体と遺産欲しさに後見人に...

《アンドロニカス》D+1

「おい、聞いたか!?」  慌てた様子で男が広間に入ってきた。  ざわつきのなかで、十数人の目が男に集まる。 「あいつ――カロンが、死んだって……!」  静まりかえった部屋。  ソファに座っていた一人が、楽しそうに呟いた。...

《アンドロニカス》D-13

 ある日、一人の少女が屋敷の扉をノックした。 「――なんだ? 学生さん?」  黒いセーラー服を着た彼女は、人形のように無表情だった。 「……人を探しているんです」  ――門番はどうした? どうやって敷地内に入ってきた? ...