真っ黒なロングヘア、真っ黒な瞳の彼女は、気ままな黒猫のように勝手に棲みついた。
昼過ぎに朝食をとりながら、彼女の視線に気づかないふりをする。
「カロンさん。今日はお仕事ですか?」
とうとう話しかけてきた。
名乗ってもいない名前を知られていても、驚きはしない。自分が何をしているのか、知っていてここに来たのだろうから。疑問だったのは、普通の少女がなぜそれらを知っていたのか、そしてその目的だ。
返事を待つことを諦めたのか、また話しはじめる。
「私のこと、何も聞かないんですね。追い出しもしないし。だから――――…もう。いいです。私、カナンっていいます。今年の三月で高校卒業なんですけど、卒業前にどうしても叶えたいことがあって。それで、カロンさんに会いに来ました」
薄っすらと赤い唇を尖らせながら不満気にしていたかと思うと、きらきらと瞳を輝かせてこちらを見つめてきた。
「……どうしろって……」
「言ったじゃないですか。殺害依頼です、私の。」
「いや――」
「契約金として前払い半分、成功報酬として後払い半分、ですよね。私の場合後払いはできないから、全額前払いで――おいくらですか?」
「いや、ちょっと……待ってくれ」
これが女子高生の勢いなのか……? 普段接しない人種への対応に、少し目眩がした。
「……これから仕事だから。続きは帰ってきてから」
まだ何か言いたそうにしていたものの、大人しく引き下がってくれた。
準備を済ませ出かけようとドアに向かっていると、後ろに気配を感じて振り返る。ここには自分と彼女の二人しかいないのだから、気配の正体は当然、彼女だ。
何か用か、と口を開こうとしたが、彼女のほうが早かった。
「いってらっしゃい。気をつけてくださいね」