D-2

 日当たりのいい窓際に置かれたソファで眠る彼女は、日向ぼっこをする黒猫のようだ。

 自分も怠惰な生活をしていると思うが、睡眠に関しては彼女のほうが貪欲かもしれない。――そろそろ起きるころだろうか。

 コーヒーを淹れていると、彼女が目をこすりながら歩いてきた。

「おはようございます」

「……ああ」

 ついでに淹れたもうひとつのコーヒーと、自分の朝食の余りをよそったプレートを、席についた彼女に差し出す。

「わぁ……おいしそう! ありがとうございます」

「別に。ついでだ」

 目線を合わせず呟くと、彼女はふふっと笑みをこぼし「いただきます」と食べはじめた。

「……カナン。なぜ、死にたいんだ?」

 ゆっくりと食事する彼女の皿が空になったころ、その名前を口にしてみた。

 喉の奥がぞくりとした。

 彼女はこちらに視線を移し、大きな目をぱちぱちとさせたあと、表情を消して数秒沈黙した。焦点の合わなくなった瞳は、暗い海に沈んでいく黒い夕日のようだった。

「……死にたいんじゃなくて、殺されたいんです。あなたに」

「死ぬのと殺されるのは、同じじゃないか……?」

「ちがいますよ」

 彼女は静かに笑って言った。

「……じゃあ、どうして殺されたいんだ?」

「――――あなたが、救世主だから」

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