朝食をとる彼を、じっと見つめる。
「私のこと、何も聞かないんですね。追い出しもしないし。だから――」
私みたいなのにつけ込まれちゃうんですよ。
「――…もう。いいです。私、カナンっていいます。今年の三月で高校卒業なんですけど、卒業前にどうしても叶えたいことがあって。」
話していると、呆れたような、困ったような表情で、うろたえているようにも見える。あの日見た彼、今まで聞いてきた噂とは、少し……だいぶ違う。
「続きは帰ってきてから」
切り上げられてしまった。残念。仕事の邪魔をしたいわけじゃないから、大人しく従った。
出かける彼のあとを追いかけ、声をかける。
「いってらっしゃい。気をつけてくださいね」
久しぶりに言った、そしてはじめて言った、義務ではない言葉。