屋敷のドアノッカーを叩く。
中肉中背の無骨な男が出てきた。用件を告げると、何か感づかれたのか追い返されそうになったが、力づくで食い下がる。
そうこうしているうちに、奥から別の――話していた男より若そうな、紳士然とした男が現れた。屋敷の人間の態度から、男がそれなりの立場であることがうかがえた。
部屋に通され、感情の読めない笑顔がデフォルトらしい優男が、飄々とした態度で言葉をかけてくる。
やっと本題に入れそうだ。
「とてもよく、知っているでしょう。――――カロン、という男のこと」
目の前に座る男も、斜め後ろの壁際に立っている男も、ぴくりと反応する。優男が鷹のような目を鈍く光らせた。
この男は知っているだろうか? どの程度知っているだろうか?
「――――十年前のクリスマス……」
ある日の夜、物音で目が覚めた。――そうだ、今日はクリスマスだから。もしかしたらサンタさんが、ついに私のところにも来てくれたのかもしれない!
いつもならそんなことはしないが、その日はどこから湧いてきたのか勇気をもって、そっと部屋を抜け出した。
階段からリビングを覗くと、暖炉の灯りで家具の影が揺らめいていた。そして、絨毯の端っこに母が倒れていて、椅子に座る父に黒い影が覆いかぶさっていた。
黒い影がこちらを振り返り、目が合った。
「……まさか、いや、あの夫婦の一人娘がたしか――成長していれば、ちょうど君くらいの年齢だったかな」
大筋しか知らないようだ。
「……ええ。ちょうど私くらいの」
気味の悪い笑顔のまま話を続ける男に返答する。
「八歳は案外、記憶も思考もしっかりしているものですよ。それに、情報が公表されていなかったとしても、どこかからは漏れてしまう」
――本当のことは、誰も気づいてくれないのに。