「戻っていて構わないよ」
柔らかく響く穏やかなバリトン――少年にかけられた、その声すら美しかった。
宝石のような少年の瞳は美しい人を映し、視線だけで返答すると静かに出て行った。
テーブルに着くよう促され、おずおずと座る。
慣れた手つきで淹れた紅茶を差し出してきた彼は、無駄のない流れるような動作で向かいに座った。
「――――遭難、ですか」
「はい、故障の原因もわからなくて、途方に暮れていたところでした。運良くこの島に流れ着いて……」
それらしく答えておく。
少し考えるような素振りを見せた後、柔和な、しかし憂いを湛えた顔つきで、彼が口を開いた。
「この辺りは電波状況が悪くて、携帯電話はほぼ使えませんし、無線も繋がったり繋がらなかったりで。救援を呼ぶより、島にある船でお送りしたほうが早いかと思うのですが……もし、お急ぎでなければ」
と言ったところで笑みを深め、続けた。
「少しの間、島でゆっくりしていかれてはいかがでしょう? 機械に詳しい子がいるので、ボートを直せるかもしれません」
「……! 特に急いではいないので、そうさせていただけると助かります」
思いがけない提案に、内心怪しみながらも肯く。