霧の中を進む。
神津島で耳にした情報通り、霧がよく発生するというのは本当らしい。
「これ、方角合ってるんですかね――――あ、」
視界が開けると、少し先に満島が現れた。
島自体が一つの森になっているかのように、青々と生い繁った木々が島を覆っている。一ヶ所入り江がある以外は、絶壁になっているようだ。
吸い寄せられるように、入り江に近づいていく。
ボートから一歩足を踏み出す。
象牙色の砂浜には、ちらほらと星の形をした砂が見える。
「もっと南に行かないと生息していないはずじゃ……?」
「どうしました?」
「いや。ここの砂、採取しておこう」
発見された舟からは、場所を特定できるような付着物は見つからなかった。役に立つかはわからないが、念のためポリ袋に入れる。
「うわぁ、花の香りですかね?」
警戒心なく歩き回る安東に、少し心配になってくる。
息を吸うと、ひどく甘い匂いが鼻腔いっぱいに広がって、肺にまで充満するようだ。
「――――誰?」