「ホルマリン……ってあの、前に言っていた――」
「その通りです。安直に考えれば、死後ホルマリンに浸した、となりそうですが……」
ホルマリンに全身を浸されたところを想像したのか、安東は何とも言えない表情になっている。
「防腐のためなら、血管に注入したほうが効率的です。それに、ホルマリン固定は組織を硬化させますが、これも起こっていません。特有の刺激臭がない点も気になりますし……むしろ微かに甘い、良い匂いのように感じます。――何より、揮発したとしても量が不十分です。ですが事実、腐敗はしていません。」
検出されたホルムアルデヒドは、防腐を目的としたものなのか。
そうであれば、死亡時刻を不明瞭にし、捜査を撹乱させるためなのか。
それとも、サイコキラーか。
硬化せず、刺激臭もないのは何故なのか。
不十分な量で防腐の効果のみを得ているのは何故なのか。
新たにわかったことが増えても、その度わからないことが何倍にも増えて、進んでいる気がしない。
――未だ、死因は不明だ。