私は今日、殺される。
――たった一つの願いのために生きてきた。
彼の手で殺されること。
彼の腕のなかで、永遠の眠りにつくこと。
「カロンは、コードネームだ。――――名前は……ダート」
――ダート……私の救世主。
もし、復讐が許されるなら。
あなたに心があることを、誰にも教えてあげない。あなたにも。
「ダートさん。私の願いを叶えてください……あなたにしか、叶えられないんです」
悪魔は私のほうだ。
屋上に続く階段を上る。たとえそこが地獄だったとしても、何もない無だったとしても、天国への階段を上る気分だ。屋上は、暖かな光で満ちていた――まるで、日当たりのいい窓際に置かれたソファみたいに。
「カナン……ここに」
落ち着いた声が、耳をくすぐる。
雲の上を歩くような気持ちで、呼ばれたほうへ向かう。
白いコンクリートに仰向けになって、はじめて出会った日からこの一週間を思い返す。
――そうか。
「カロンは、渡し守じゃなくて星のことだったんですね」
……あなたが冥王星だから――。
目を開けると、穏やかな目をした彼がこちらを見ていた。
「――カナン」
この声を憶えていよう。
痛みと、苦しみと、辛さと、怖さしかないこの世界で、私の唯一の安息地。
あの日私を救ってくれて、きょう私の願いを叶えてくれて、
「ダートさん、ありがとう」
やっと――
真実の数と、同じだけの数の願い。