『おかえりなさい』
そう言うと、彼の目がきらきらと瞬いた。
――夢か。
暖かい日差しで目を覚ます。
ここに来てから、どうしてもぐっすり眠ってしまう。
コーヒーの匂いがして、彼が飲んでいるのかと思ったら、私の分まで淹れてくれたらしい。コーヒーだけじゃない。この数日間、彼はなぜか私の食事を用意してくれていた。倒錯的な状況に、少し笑ってしまう。
「……カナン。なぜ、死にたいんだ?」
彼が、私の名前を呼んだ。
私のなかで何かが弾けた。光の粒が降り注いでいるような、幻覚を見た。
光の粒は地面に落ちたあともちかちかと輝いていたのに、背後から黒い波が襲ってきて真っ暗になった。
「……死にたいんじゃなくて、殺されたいんです。あなたに」
あなたに殺されることに、意味があるのに。
「――――あなたが、救世主だから」
籠を壊してくれた人。
そこが、籠の中だということすら知らなかった――私を救ってくれた救世主。