日当たりのいい窓際に置かれたソファで眠る彼女は、日向ぼっこをする黒猫のようだ。
自分も怠惰な生活をしていると思うが、睡眠に関しては彼女のほうが貪欲かもしれない。――そろそろ起きるころだろうか。
コーヒーを淹れていると、彼女が目をこすりながら歩いてきた。
「おはようございます」
「……ああ」
ついでに淹れたもうひとつのコーヒーと、自分の朝食の余りをよそったプレートを、席についた彼女に差し出す。
「わぁ……おいしそう! ありがとうございます」
「別に。ついでだ」
目線を合わせず呟くと、彼女はふふっと笑みをこぼし「いただきます」と食べはじめた。
「……カナン。なぜ、死にたいんだ?」
ゆっくりと食事する彼女の皿が空になったころ、その名前を口にしてみた。
喉の奥がぞくりとした。
彼女はこちらに視線を移し、大きな目をぱちぱちとさせたあと、表情を消して数秒沈黙した。焦点の合わなくなった瞳は、暗い海に沈んでいく黒い夕日のようだった。
「……死にたいんじゃなくて、殺されたいんです。あなたに」
「死ぬのと殺されるのは、同じじゃないか……?」
「ちがいますよ」
彼女は静かに笑って言った。
「……じゃあ、どうして殺されたいんだ?」
「――――あなたが、救世主だから」