昨日も結局、どんなふうに殺してほしいとか、予算はいくらでとか、一方的に挙げられる要望を聞いているだけになってしまった。
相手にせず追い出してしまえばいいのに。それとも、本人が望んでいるのだからさっさと殺してしまえばいいのに。
「いってらっしゃい」
やっぱり、心臓のあたりがざわざわする。
……そういえば、彼女はなぜ殺されたいのだろうか。
仕事に向かうなか、ふと思った。
夕日が沈みきったのを合図に、ターゲットに近づいていく。
「ひっ……! た、助け、ころさな――」
いつもと、同じ。
いつもと違うのは、仕事終わりの夕食を誰かと一緒に食べることくらいだろうか。
「――おかえりなさい」
ドアを開けると、彼女が微笑んだ。
急に、鳩尾から喉にかけて、何かがふわふわと駆け抜けていったような気がした。