あまり眠れなかった。
ベッドに横になったまま、昨日のことを思い出す。
仕事中も気になって集中できなかった。だからといってヘマはしなかったが、帰るのが予定より遅くなってしまった。
帰ったときには彼女はすでに眠ってしまっていて――今もソファで静かに寝息をたてている。何時間寝るんだ……? ――話の続きはできていない。
気になっていたこと――――わからないことだ。
何が気になっているのか、わからない。わからない感情。気分。気持ち。……いや、自分にはそんなものなんてない。持っていない。……でも、心臓がむずむずする。
彼女の言葉を聞いてからだ。はじめて言われた言葉。
――そうだ。
『こいつを殺してほしい』
『どうか殺さないでくれ』
いつも、誰かを殺せ、自分を殺すな、そう言われてきた。
自分を殺してほしいと言われたのは、はじめてだった。
「――おはよう、ござい、ます」
納得がいったところで、彼女が目を覚ました。
もう昼だが。
「ごめんなさい。起きていようと思ってたんですけど……」
よく寝るなと思って、ただぼうっと見ていただけなのだが、起きて待っていなかったことを咎められていると思ったらしい。
「いや、帰ってくるのが遅かったし、別に待っていろとまでは言っていない」
そう言うと、彼女は少し困ったような表情で笑った。
「……怪我とかしてないですか?」
「ああ」
「そうですよね。カロンさん、すごく強いし」
「……どうして、知っている? 名前も、何をしているかも、居場所も、強いかどうかも」
疑問を口にすると、嬉しそうに言い放った。
「秘密です」
……は?
「どうして知っているかは秘密ですけど、どうしてカロンさんを探していたか、なら言えますよ。――私、嫌なんです。痛いのも、苦しいのも、辛いのも、怖いのも。だから、殺してもらうならカロンさんがいいなって」
「……はぁ」
「私の依頼は、痛みも苦しみも辛さも怖さも与えずに私を殺してもらうことです」