「いやぁ、まずいですよ……これはまずいです」
海風を浴びながら、思い詰めた顔の安東が呟く。
太平洋を走る小型ボート。――目的地は満島だ。
島で捜査をしたくても、個人所有である満島は簡単には立ち入れない。島の所有者とは一向に連絡が取れずにいる。今のところ満島が事件と関連していることを指すのは、舟の出発点であろうという推測だけだ。確度は高いはずだが、証拠として弱いのか令状が出ない。
エンジンが故障し遭難、満島に流れ着いた、という体で上陸することにした。無理矢理感は否めないが、捜査を進めるには強行突破するしかない。
「船舶免許を持っているとは、安東も使えるな」
「こんなことのために取ったんじゃないんですけど……」
安東の小さな反抗は、エンジンと波の音に掻き消された。